大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)978号 判決

被告人 岡本三郎

〔抄 録〕

論旨第一点。

人が、他人の窃取された財物を所持している場合、必ずしも直ちに、その人が、その財物を窃取したものであるというを得ないことは、まことに所論のとおりである。しかしながら、若し、窃盗犯人でなかつたら、通常あるまじき不当な言動があつたり、自己の所持する財物が、現に所在追及中の盗品であることの明らかになつた以上、事の自然として、その所持人において、当然、公明にして理路の整然とした弁明があるべきに拘わらず、弁明の内容自体に事理に背くものや、全くの虚偽等があつて到底首肯し難いものがあつたり、或いは、その主張内容の片言雙語の中に窃盗被害の事実に間接ながら係わりのあるものがあつたりしたような場合には、たとえ窃盗の犯行が、所持人の所為に係るものであることの直接の証拠がないとするも、他に窃盗の罪の成立を疑うべき何等合理的な事由の認むべきものがないかぎり、これらの事情や窃盗被害の事実、ないしはその当時の模様を総合考察して、盗品所持者による窃盗の所為を推認することは、事理、経験の上から言つて決して不当なことではない。今これを本件について記録及び証拠によつて見るのに、なるほど、被告人の犯行であることの直接証拠としては必ずしも明白なものがあるということはできないけれども、被告人は、数ある宝くじのうち当せんすることのまことに稀に属すべき一万円と五千円当せんの宝くじ二枚を持つて、当せん金支払の期日に日本勧業銀行に赴き、氏名を石塚町也と佯り、当せん金の支払を請求したところ、その宝くじは、予ねて、窃盗の被害者側からの通告によつて盗品であることの明らかになつていたものであるところから、窃盗の嫌疑を受け、同所において警察官に逮捕されるに至つたものであると共に、その際逮捕した警察官から、宝くじの入手経路を質問されるや、その宝くじ発行の日は十一月十日であるに拘わらず「十月中頃錦糸町日本橋その他で二、三枚宛買つたものだ」と述べ、その後、被告人の取調に当つた警察官に対しては、「水道橋から銀座へ赴むく途中の二、三ケ所と錦糸堀で買い入れた」と言い、(本件宝くじを直接盗まれた被害者山口八千代は、宝くじ売捌人であつて、東京都内水道橋の講道館寄りの街路で売り捌いていた者で、被告人が現に所持していた右二枚を含む六百二十枚の宝くじは、昭和二十九年十一月十二日午后八時頃都電水道橋停留場から春日町停留場へ向う進行中の都電内で盗まれたものであることは、原審証人山口八千代の証言によつて明らかである。)更にそれから一週間位経つた後の弁明では「神田橋附近の喫茶店で刑務所で知り合つた者に引換を依頼された」と前言とは全く相違する事実の陳述を為し、原審公廷では、単に、窃盗の事実を否認しただけで、特段に積極的な首肯し得べき弁明事由を述べることなく、ただ、弁護人から被告人の現場不在証明に関し、鈴木義夫なる者の証人尋問の請求をしているにすぎない。原審はこの請求を却下したのであるが、当審は、更に慎重を期するため、右請求にかかる人を証人として尋問した結果やその他の事実取調の結果によるも、その主張する被告人の現場不在の事実を認め得るもののないことは勿論、被告人逮捕以来当審までの諸般の弁明事由も、これを確認し得べき何等の事由もない。寧ろ却つて、同証人の証言によるときは、昭和二十九年十一月のおとり様の頃の夕飯後証人方を訪づれた被告人が、証人に対し、宝くじ二、三枚を見せて、当つたら奢るよと言つたことのあることが窺われ、この事と被告人が他人から宝くじの当せん金受取の依頼を受けるや、その日(昭和二十九年十一月二十五日)午后一時頃その支払を受けるため日本勧業銀行に赴むいた旨の当審主張とは明らかに矛盾し、その主張の根拠のないことは自ずから明白である。しこうして、記録や証拠に見られる被告人の宝くじ当せん金支払請求当時ないしはその後における言動、逮捕後における被告人の弁明内容における窃盗被害事実に係り合のある微妙な片言雙語ないしは被告人いうところの首肯し難い宝くじの入手顛末等を綜合して考察するときは、他に被告人による窃盗の事実を否定すべき合理的な事由を認め得るに由のない本件において、原審が、被害者側の本件宝くじ等の窃盗被害顛末に関する証拠、被告人からその所持していた本件宝くじを押収した事実を記載した差押調書、被告人の逮捕当時における被告人の言動等を明らかにしている逮捕警察官の原審公廷における供述を綜合して被告人につき窃盗の事実を認めたことは正当であつて、原審の事実の認定に事実の誤認があるとする所論は採用できない。論旨は理由がない。

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